★参考文献:【月惑星研究会http://alpo-j.asahikawa-med.ac.jp/ 】から
土星白斑活動について by 月惑星研究会のQ&A
Q.土星白斑活動についてOAA名古屋支部例会で出た質問(2011/02/12 池村俊彦)
・V系 +2.84゜ということで、これはV系に対して白斑(先頭部分は) 南を上にした画像で 右へ移動しているということですね。(池村)
・この彗星の尾に見える部分の真ん中が黒くなっていますが、これは何でしょうね。気になりますね。(個人)
・彗星のように見えているのは
白斑が右に動いて、尾は残留物が置き去りになって残っているのか、白斑は静止していて、周りの気流により尾をたなびかせているのか、どちらでしょうね。
(個人)
・尾の先端部分(左端部分)はV系258゜付近? 最初の位置ですか。(全員)
・T系 U系 V系 どれとも一致はしていないようです。今回の土星の白斑は過去に例が無かったものだと思いますが。
どうでしたでしょうか。(全員)
・いままでに、何かわかったことはありますか。(池村)
赤外線 はっきり写っている様でもない
紫外線 少し明るい程度
メタンバンド 全く写らない
多分可視光線の青画像が少し強い。
カッシニが撮影した画像から、でかい渦であることがわかった
これ以外は...
A.土星白斑活動について(2011/02/13
伊賀祐一)
木星ほどに追跡できていないことと、土星観測史上初めての現象ですから分からないことばかりですが、
白斑の活動は、北熱帯の幅いっぱいに拡がっていますが、以下の3つの領域に分類されます。
(1)
北熱帯中央部(メイン)
白斑が最初から現在まで継続して発生している。活動の西端は明瞭で、DL3=+2.84度/日(池村)で後退している。
白斑は1箇所だけではなくて、前方でも数珠つなぎに発生している。
(2)
北熱帯南部(北赤道縞にも一部侵入)
メイン白斑の発生直後に発生。最初の白斑発生から、前方に順番に白斑が発生した。初期の活動の東端はDL3=約-4度/日で前進している。
(3) 北熱帯北部(北温帯縞にも一部侵入)
この活動の白斑は最も遅く発生したが、今は見られない。これも白斑が数珠つなぎに並んでいた。
この3つの活動領域は、白斑出現の2010年12月8日から1月までの現象のことです。
土星大気も緯度別に異なるジェット気流が吹いていて、その間は緯度方向に速度勾配を持った帯状流になっています。T系 U系 V系は
平均的な風速に基づくために、実際の模様が一致することはありません。探査機の画像から、緯度に対する風速プロファイルが求められて
いますが、初期の(1),(2)の白斑はこれに一致した動きという報告があります。
『彗星のような白斑』については、2月以降の現象ですが、これについて。
1)
発生源には1個のプルームが継続的に噴出していて、発生源自体は経度増加方向(南を上にして右)に後退し、プルームからの噴出物は
経度減少方向(南を上にして左)の前方に拡がっている。これがプルーム前方の白斑の並びとして見えている。
2)
プルームからの噴出物が南に移動して、別の前進気流にとらえられたのが『北熱帯南部』の活動である。
私は2)については、新しい小規模のプルームが北熱帯南部に出現したのではないかと思っています。メインから流れたにしては距離があるの
に白斑の勢力が強いように感じます。同様に、『北熱帯北部』の活動もメインのプルームに誘発された、新しいプルームの出現による現象かも
しれないと思います。いずれにしても、現時点の見解です。今後の解析が待たれます。
A.(2011/02/14
堀川邦昭)
北半球に出現した白斑としては、1903年にバーナードが発見したものが有名ですが、今回のような大規模なものは、前例がないと思います。
私が把握している観測事実は、池村さんや伊賀さんがまとめられたものと、ほとんど変わりありません。この現象についての理路整然とした説明は、プロの研究成果を待たなければならないでしょう。
私は土星については木星ほどよく知らないのですが、今回の現象について、あえて間違いを恐れずに述べてみます。
木土星課というよりは、堀川個人の見解と思っていただければ幸いです。
12月のカッシーニの画像で見ると、今回の白斑は、まるで土星内部から湧き出した巨大なプルームのように見えます。
V系に対して+2.84°/dayで経度増加方向に移動している後端部分(南を上にして右端)が常に最も明るいので、プルームの湧き出し口自体が移動していると考えられます。
自転周期に換算すると10h41m37sで、V系(10h39m22.400s)より2分以上遅いことになりますが、これは、土星内部にあるプルームの発生源の自転周期そのものであり、そのために既存の経度系のどれとも大きく異なる結果になっていると思います。
この考えだと、彗星の尾のように見える部分は、池村さんの言うように、置き去りになったものとなります。
ただし、尾の先端(南を上にして左端)は、最初の経度に留まっているのではなく、経度現象方向(さらに左)へ移動しているので、NTrZ南部の気流によって流される効果も加わっているようです。尾に沿って見られる白斑は、この気流による順圧不安定で生じた(内部からの湧き出しではなく、水平方向のかき混ぜによる)ものではないかと思われます。
NEBnに沿った尾の北側にも、もう一本別な尾が見られます。これは、プルームが湧き出した後、水平方向に大きく広がったため、最北端の部分が、別の気流に捉えられたと考えられます。
このプルーム説の弱点は、メタンバンドで明るくないという事実です。内部から湧き出したプルームならば、雲頂は高く、メタンで明るいはずです。
ただし、土星は木星より太陽から遠く、表面温度もずっと低いので、木星のケースをそのまま適用できない可能性があります。
大気高層のヘイズが厚い、大気の温度が低くて圏界面が低いところにある、などの理由により、大気上層部がメタンの波長に対して木星より不透明であれば、説明がつく可能性はあります。
以上、思いつくままに述べてみました。
上記は、堀川の個人的見解です。
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V系について
Q.V系で論じているのは何故でしょうか。(K.Y)
U系で考える意味はないのでしょうか。
A.(2011/02/13
伊賀祐一)
BAAの土星セクションの観測ガイド(7)に記述があります。
http://www.britastro.org/saturn/satprog.html
土星の自転周期は、木星と同様に、3つの定義があります。
体系1 赤道付近の自転周期、眼視観測に基づく
体系2 赤道以外の自転周期、眼視観測に基づく
体系3 電波観測に基づく自転周期
ところで、土星では体系Vと体系Uは似通った自転周期であることから、体系Uを取り止めて体系Vを採用したとあります。
ちなみに、木星では3つの自転周期が使用されていて、アマチュアは体系T,Uを、研究者は体系Vを使っています。体系Vだけで論じると、あまりにも模様がずれるために、伝統的に体系T,Uを使います。
Q.土星のアマチュアの報告画像のデータには体系T〜V迄記載する必要はないのでしょうか。(K.Y)
A.土星には少なくとも、体系T(赤道付近)と体系V(赤道以外)は必要です。(2011/02/14
伊賀祐一)
体系U(赤道以外)はどちらでも良いですが、私は見ていません。あえて削除する必要もなくて、3個の体系があっても良いと思います。
木星は、体系T(赤道付近)と体系U(赤道以外)は必要です。
体系V(電波観測に基づく経度)はオプションとして、計算できる人は記載してください。
A.木星の場合、体系Tと体系Uは(2011/02/14
堀川邦昭)
、ボイジャーによる風速分布と矛盾なかったため、そのまま使用されています。9h50mの速い赤道付近と、その他の9h55m前後の部分に二分できたのです。
しかし、土星の場合はそうなりませんでした。赤道加速はあったのですが、両極へ向かうにしたがって、風速はなだらかに減少して行くだけでした。
そのため、眼視観測に基づく体系2の根拠が失われてしまったのです。
そこで、赤道以外は、電波観測に基づく体系3を使えば十分と考えられてしまったようです。
A.土星面は模様に乏しく、自転周期を決定できるような模様は、(2011/02/15
堀川邦昭)
歴史的に見ても、数が少なかったという事実があります。そのため、土星の体系I、体系IIは数少ないリファレンスから便宜的に決められたに過ぎないということができます。
一方、ボイジャーが調べた土星の風速パターンでは、赤道加速が木星の約4倍も強く、また加速の及ぶ緯度範囲も広く、±40°に及んでいます。
木星では、縞帯のパターンと風速分布(ジェットストリーム)には密接な関係がありますが(ベルトの赤道側の縁には自転方向のジェットが、極側の縁には逆方向のジェットが流れている)、土星では縞帯のパターンと風速には関連が見られませんでした。
赤道部分の体系Iだけは、ボイジャーの観測と矛盾なかったのですが、我々の見る土星面の半分以上は、巨大な赤道加速の裾の部分に含まれてしまいますので、便宜的に決められただけの体系IIについては、根拠が薄くなってしまったわけです。
この点、大量のデータの積み重ねのある木星とは大きな違いです。
このため、土星の赤道以外の部分については、電波で求めた体系IIIを適用し、個々の模様の運動は、体系IIIとの経度変化量で議論するという方式になったのだと思います。
[ALPO JAPAN]
≪月惑星研究会≫